C-BIT展クロージングソーシャルレポート

HOTEL ANTEROOM KYOTOにて、2026年1月30日(金)から2月8日(日)まで開催された「C-BIT展」。立命館大学ゲーム研究センター(遊創研プロジェクト)が主催したこのイベントでは、同大学に在学中の若手クリエイターが制作に取り組んでいるゲームが展示されました。

このイベントの最後を飾ったのが、最終日に開催されたクロージングソーシャルです。クロージングソーシャルでは「未完成であること/完成とはなにか?」をテーマにしたトークセッションなどが行われました。

本記事では、イベント最終日に開催されたクロージングソーシャルの様子をご紹介します。

開会挨拶~「分かったつもり」で挑戦することこそ成長の原動力

渡辺修司氏 立命館大学映像学部教授

1週間前から、犬を飼い始めたという渡辺氏。パピーウォーカー経験があることから、犬を飼うことについては「分かっている」と思っていたものの、いざ飼ってみるとそれが「分かったつもり」でしかなかったことを痛感したそうです。

この経験から、渡辺氏は「人は何かを『分かったつもり』になり、未知に挑戦し、実は全く分かっていなかったことに気づく」と考えます。そしてこのプロセスこそがクリエイターが真に学び、成長するための原動力になるとした上で、「ゲームを作り、体験してもらうことを楽しむ姿を後輩たちに見せていってほしい」と会場の学生たちにエールを送りました。

トークセッション「未完成であること/完成とはなにか?」

登壇者:
飯田和敏氏 C-BIT展総合プロデューサー/立命館大学映像学部教授
中村隆之氏 株式会社ブレインストーム代表取締役/サウンドクリエイター

続いて、飯田氏と中村氏によるトークセッションが行われました。トークセッションのテーマは「未完成とは何か?」。

飯田氏は「未完成」を「どうしたらいいだろうという問いが常に存在する状態」と定義します。そして、その問いに答えようとすることが創造の推進力となると主張しました。

飯田氏がこのように考える背景には、BitSummitで得た経験があります。BitSummitは日本国内外のゲームクリエイターが一堂に会し、自作のゲームを披露し合うインディーゲームイベント。飯田氏が十数年前に初めて参加したとき、会場では、ゲームの企画書を前に様々なゲームクリエイターが意見交換し合う光景が見られたそうです。

未完成作品を発表することは、アイデアを他人に模倣されるなどのリスクを考慮して避けられがちです。しかし、あえて未完成の状態で発表し、開発過程を他者と共有し、お互いの努力や進捗に対しエールを送り合う。この行為が、開発者にとって前に進むためのモチベーションになることを飯田氏はBitSummitで感じたのです。「インディーゲームの盛り上がりはもちろん、未完成のものが発表する場ができたことが衝撃的だった」と飯田氏は当時を振り返りました。

中村氏も「制作過程は次々とアイデアが出てくる」とこの主張に同意します。しかし、アイデアをすべて盛り込もうとすると、作品作りにゴールはありません。特に商業作品の場合はリリース日があるため、いつまでも創り続けることは不可能です。そのため、クリエイターには「どこかでアイデアを止めるか判断し、完成させる勇気」もまた必要であるという意見を述べました。

一方、飯田氏は、商業作品であっても制作時に出てきた全てのアイデアを盛り込むことはできないと指摘しました。ゲームシステムやストーリーなどに、盛り込みたかったけれども盛り込めなかった要素が必ず出てきます。このような心残りがある状態もまた「未完成」といえるのではないか、そしてその未完成の状態こそが、次の作品を創る力になるのではないかと説きました。

さらに飯田氏は、「未完成のものであっても、人は喜び、楽しむ」と、今回出展されたゲームを引き合いに語ります。出展されたゲームはいずれも未完成の作品です。にもかかわらず、ホテルの宿泊者を中心に多くの人が遊び、楽しみました。中にはあまりにも人気であったため、コントローラーが不調に陥ってしまったものもありました。

両氏の主張から、「未完成」は決して否定的な状態ではなく、アイデアの源泉や創造を進める力となり、誰かを喜ばせることもできることが見えてきます。

続いて披露されたのは、飯田氏が制作中の映像約40秒、中村氏が制作中のゲームのプレイ動画です。両氏の映像や動画にはともに生成AIが活用されていることから、トーク内容は生成AIの活用へと移っていきました。

中村氏は、昨年夏頃からの生成AIの進化に大きな危機感を抱き、「近い将来、ゲーム制作やゲーム制作会社の在り方が大きく変わっていくのではないか」と予想しています。その理由は、すでに生成AIに関する十分な知識を持ち、仕事に活用している多くのクリエイターの存在です。

確かに、近年は、生成AIの進化によりクリエイターが不要になるのではないかという議論が、しばしばメディアを賑わわせます。しかし中村氏は、この論に関しては反対の立場を示しました。なぜなら、創造には、新しいアイデアをひらめくことや、ノウハウやゲームのルールを創ることなど、人間にしかできないことが存在するからです。

また、たとえば100の音があったときに、そこからどの音を選ぶかという「選択」には、人間の個性が現れると考えています。実際、中村氏が制作途中のゲーム動画を見た飯田氏は「サウンドは中村さん自身が作っているから、中村さんの特徴がよく出ている」という感想を述べました。このことから、生成AIの活用が進んでも、「人間が創造することには十分意義がある」という中村氏の意見には十分な説得力が感じられます。

人間が創造する意義について、飯田氏は続けて「AIが登場する前の作品の中には、ディテールや情報量が非常にゆたかで、とてもではないが勝てないと思うものがある」と指摘しました。そして、ディテールや情報量をゆたかにするものとして挙げたのが「ストーリー」、つまり断片的なアイデアをつなげるものです。たとえばC-BIT展では、ホテルのギャラリーという場があり、ホテル宿泊客がいて、学生の未完成のゲームがあります。これらをつなげるものが、ストーリーであると飯田氏は言います。

「AIがますます進化していくからこそ、クリエイターに求められるレベルはより高くなっていく。いかにストーリーを見出し、作品をゆたかにしていくかが、これからのクリエイターにとってもっとも大切なものになるのかもしれない」。飯田氏はこのように述べ、トークセッションを締めくくりました。

質疑応答~AIの台頭によりクリエイターの姿はどう変わるのか

トークセッションの後は、フリートーク形式で質疑応答が行われました。

特に熱心な質問が出てきたのは、会場に参加している大学生からの質問です。ゲームを作っている学生にとっては、トークセッションに出てきた生成AIの台頭によるクリエイターの変化はまさに、これから社会に出て行く自分たちが直面する問題でもあります。

中でも印象的だったのは、サウンド系の職を目指していたがAIの進化により仕事がなくなることを考え、別の職種でゲーム業界に就職することになった学生からの質問です。若手の活躍の場がなくなるのではないか、という危惧に対し、飯田氏や中村氏からは、「依頼されて創るのではなく、自己表現として創ることにこそ意味がある時代になるのではないか」という見解が示されました。

また両氏は、これからのクリエイターの役割は「創る」から、「アイデアを出す」「生成物の中から良い物を選ぶ」という方向にシフトすると予想します。大学で学ぶ基礎知識や技術に関する知識は今まで以上に重要性を増すという考えを述べました。同時に、AIを使って画像や映像を作成し疑似体験できる現在、「体験とは何か」という哲学的な問題に向き合わざるを得なくなるとも語り、今後のクリエイター像を浮き彫りにしました。

展示会場巡回パネルディスカッション

参加者:
飯田和敏氏 C-BIT展総合プロデューサー/立命館大学映像学部教授
豊川泰行氏 HOTEL ANTEROOM KYOTO マネージャー/立命館大学ゲーム研究センター 客員研究員
末浪勝己氏 ゲーム制作者/立命館大学映像学部卒業生

続いて行われたパネルディスカッションは、豊川、末浪両氏とオンラインでつながり、展示会場を実際に巡回しながら行われました。

各ゲームブースでは、飯田氏が簡単にゲームを紹介したあと、開発チームの代表が豊川、末浪両氏に対しゲームの開発意図や概略などを説明しました。さらに実演も行い、両氏からコメントをもらうという形で進みました。

どのゲームも、これから実装していきたい要素があり、そして実装に向けてどうしたらいいだろうかという問いがある、すなわち未完成の状態にあります。今後どのような要素を追加していきたいかをオンラインの向こうにいる豊川氏と末浪氏に語る様子は、トークセッションにあった、「どうしたらいいだろうという問いが、創造を前に進める推進力になる」という言葉を彷彿とさせるものでした。

今回出展したクリエイターは、これからどのような問いを立て、どのようにゲームを創っていくのでしょうか。将来が楽しみになるようなイベントでした。